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自転車かいぼー学

「ケーブルシステム」のはなし

ケーブルシステムは自転車の神経系
 自転車は乗り手の意思を伝達するシステムを備えることによって、初めて自由自在にコントロールされる。自転車解剖学的に見ればいわば神経系に当たる。その神経系が、変速機とブレーキに使われているケーブルシステムなのだ。ケーブルシステムは「アウター」と呼ばれる柔軟なパイプと中を通る「ワイヤー」によって構成されている。シンプルだけどその役割は大きい。今回はこのヒミツに迫ってみよう!

 乗り手の意思の通りに止まったりスピードを緩めたり、コントロールするのはブレーキ系であるがそのコントロールにケーブルシステムが使われている。また体力や路面状況に応じて最適なギアを切り替えるのは変速機の役目だがこの意思伝達もケーブルシステムが活躍している。この意思伝達の神経系がしっかりしていないといくらどなっても今のシステムでは自転車は何も言うことを聞いててくれないのだ。
 今日では「当たり前」のように使われているケーブルシステムだが、現在のシステムになるまでには長い歴史があるのだ。そこで先ず自転車の「制動系」ブレーキの移り変わりから見てみよう。

スピード化に対応してロッドブレーキの登場
 自転車と呼べる形態の元祖は19世紀初頭のドライジーネである。この自転車は足で地面を蹴って進んでいたから、止まるときも足を地面に押し付けとまっていた。つまりブレーキと呼べそうな部品は「靴の底」ぐらいで何か特別な装置があったわけではない。そして自転車は1839年のマクミランより歴史は「ペダル」駆動の時代になる。マクミランは今で言えば「三輪車」のように前輪とクランクペタルが直結しており、ペダルを止めれば車輪も止まったのでまだブレーキ装置は登場しない。またこのマクミランをスピード化するのに前輪を大きくしたオーデナリー型、これはみんなもよく知っているダルマ自転車が登場する。
 問題の制動装置だが、構造的なものが登場するのは19世紀中〜後半ぐらいからのことだ。テコや棒、紐などを組み合わせて木や金属製の制動部分を車輪に押し付ける仕組みが始まりと言われている。年代、構造がはっきりしないのは自転車だけではなく馬車なども同時に改良が進行しているため、記録が馬車のものなのか自転車のものなのか一部あいまいで特定できない点はご勘弁を…。初期のオーデナリー型には無かったブレーキだが、後期の方になると先端がスプーンの格好をしたものを車輪に押し付けその操作を手元に近いところでで操作出来るように棒状の物が伸びていた。また1861年に作られたミショーにもやはり手元で操作できるようなスプーン状ブレーキが取り付けられている(図参照)。手元近くで操作できるロッド(棒)式コントロール系をすでに機構的に持っていたのだ。どうやらこの辺りが自転車のブレーキ装置の創世記と言えるだろう。

空気入りタイヤがリムブレーキを生んだ
 空気入りタイヤが発明されたいきさつは「ホイールの話」で触れたが、これがブレーキに新たな問題を付きつけた。スプーン状のものを接地面と同じ面に押し付けていてはタイヤをいためてしまうのだ。先ず考えられたのが車軸付近をベルト状のもので止めるいわばバンドブレーキの原型のようなものが考えられた。しかしこれは制動力が弱く記録としては「存在していた」でとどまっている。そして工夫は進み20世紀初めにリムに制動部分を押し当てる構造のロッド式ブレーキが登場する。つまり現代のブレーキのようにブレーキゴム(ブレーキシュー)をリムに押し当ててるブレーキの構造は空気入りタイヤの副産物だったのだ。

制動装置を完成させたケーブルシステム
 制動部分を押し当てる個所がタイヤからリムへと変化したばかりでなく、やがて乗り手の意思を伝える伝達部分も、鉄製の棒を使ったロッド式から進展を求められるようになった。現在我々の自転車に使われているケーブルシステムのブレーキはすでに1910年代に登場している。なぜケーブルシステムが考案されたのか?その答えは簡単明快だ。ロッド式ではハンドルが必要以上に回ってしまうとロッドが折れまったく役に立たなくなってしまう。この点を改良するにはフレキシブルな伝達部分が必須となり、ケーブルシステムが考案採用されたのだ。このワイヤーとアウターからなる柔軟性にとんだケーブルシステムによってブレーキを作動させるという仕組みは実に画期的だった。このシステムの登場にによってロッドが折れて致命傷になるトラブルから開放され、レイアウトの自由度も増した。このようにブレーキをリムに押し当てる構造に加え、ケーブルによる伝達システムが考案されたことによって、自転車の制動装置は、20世紀初頭に形を成した。このブレーキシステムは以後現在に至るまで、基本は変わっていないことを考えるとこの段階で完成していたと言えるだろう。
 他の伝達方式としてはマウンテンバイクなどにはディスクブレーキや油圧式ブレーキを備えたモデルも確かに存在しているが、主流の座を守り通しているのはケーブルシステムによるリムブレーキだ。逆にいえばケーブルシステムがいかに自転車に適しているかの証明でもあるだろう。自動車、オートバイなどは油圧式が主流なのは言うまでも無い。
 さて自転車の制動装置にケーブルシステムが採用されるまでには、いろいろな歴史の積み重ねがあった事をおわかりいただけたかな?それではいよいよ、乗り手の意志通に自転車を機能させるために欠かせない神経系ともいえるケーブルシステムのスグレモノぶりを解き明かしてみよう。

優れた柔軟性で諸問題を難なくクリア
 乗り手の意志を伝達するには、入力される「レバー(てこ)」側はできるだけ手元あるいは操作しやすい場所なくてなならないし、出力は作用側(ブレーキや変速機)のためその経路はいくつかの点で方向を変える必要が有る。この方向を変える方式は滑車やてこ、ガイドによって行うのが普通の発想なのだが、現在のケーブルシステムはシンブルで自由に方向をかえられしかもちゃんと力が伝わるなんとも不思議で画期的な構造なのだ。最も特徴的に採用されている部分は、ハンドル周りからフレームへ伝達経路をつなぐ部分であろう。
追記:「ガイド」は変速機のワイヤーの案内にBB下に見ることができるが、それ以外はほとんどアウター&ケーブルによる伝達システムとなっている。

アウターに秘めた「力」
 歴史的に迫れば上記の通りなのだがそこで素朴な疑問がわいてくる「なんであんなにグニャグニャしているのに力が伝達されるのか?」。その秘密は全て「アウター」に有るのだ。ガイドや滑車によって意志の伝達はワイヤーだけでもできるが、これに「自由自在の方向」と言う条件をみ満たす仕事がアウターの役目なのだ!
(左図参照)a-a'の間が「レバー」に相当する力点側だ。力点間a-a'をのばそうとする力Fとすると、その力が作用点側b'-bを縮めようとする力F'になるのだが、自由自在に曲がっているa'-b'間(アウター)にはどんな秘密が有るのだろう?力点に力が加わるとアウターは圧縮され固くなりワイヤーのガイドの役目となる。それが直線部分なら全体が圧縮されソリッドなパイプとおなじとなる。驚くべきは曲線部分でカーブの内側のみが圧縮されまさにワイヤーを導くガイドになってしまうのだ。なんとも優れた構造なのだ。

力のロスをなくす工夫
 思い付いてしまえば単純構造のケーブルシステムであるが性能アップのため地道に改良を重ねてきた。その一つは、アウターの構造材を丸線から圧延加工した平板に変えたことだ。丸構造だと圧縮された隣り同士のらせんが「脱線」の様に崩れやすかったり、アウター全体の圧縮ロスがあった。平板に変えることで破断も少なくa'-b'間の圧縮ロスが格段に少ない強いアウターになったのだ。さらにアウターの中をスムーズにワイヤーが運行できるよう「ライナー」とよばれる摩擦係数の低い樹脂チューブをインサートした。これはワイヤーを引く力が強ければ強い程、ワイヤーアウター間の摩擦抵抗が増えるのをいかに防ぐかのくふうなのだ。
なんとも地道なつみかさねなのだー。

ワイヤーの種類と保守
 自転車に使われているワイヤーは変速機用とブレーキ用は別の物である。ブレーキ用はワイヤーの先端部分のストッパー(=ニップル)の形が2種類ありドロップハンドルブレーキレバーには傘(かさ)形ニップル、マウンテンバイクなどのフラットハンドル用ブレーキレバーにはタイコ形が使われる。変速機用はメーカーによって若干大きさが異なるが形はほぼ同じ。
 ブレーキ用変速機用とも「ワイヤー」であるから細い鋼線をよりあわせた構造で、太さは変速機用が1.1から1.2ミリ、ブレーキ用が1.6ミリである。アウター内部やワイヤーガイド部分で接触摩擦を減らすため潤滑剤によるメンテナンスが必要だ。またよりあわせた鋼線のなかの一本でも断線していたりほつれがあったら即交換しよう。特にブレーキワイヤーは命にかかわる部分なので日ごろから目視による点検をしよう。断線の多くはニップル部分と部品側の締めつけ部分の両末端がほとんどだからこの部分を目視で十分チェックしておこう。

Copyright : Junichi Morita とプロジェクトK(イラスト:五十嵐 晃)


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